創作文・「美しき日々・・~それから・・~Beautiful days」⑯
조회 수 17711 2005.05.28 17:24:31久しぶりに、セナの夢を見た。
セナをおぶって、土手を歩きながら、子守唄を歌っていた頃の夢だ・・・。
「歩けるくせに、セナはいつまでもヨンスに甘えてばかりで・・・。」
園長先生の声も鮮明に聞こえる・・・。
「先生、いいのよ。私、セナを負ぶっている方があったかくて、気持ちいいもの。」
セナは、ヨンスにひしと抱かれ、自分のさみしさや不安を解き放そうとしていた。
そのセナの背中に、熱湯の入ったやかんをこぼした!
火がつくほどに大泣きするセナ・・・
「セナ・・・・!」
声にならない、かすれるほどの緊張した声が出た。
横向きに寝ているヨンスの背中には、ミンチョルのぬくもりがあった。
いつも、セナの背中の大やけどの処置をしている場面を思い出し、夢から覚める・・・。
「・・・セナの夢をみたの?」
ミンチョルが、優しい声でたずねる。
ヨンスは、声もなく、ミンチョルの胸元に顔をうずめた。
「・・・・天使の家にいた頃、まだ、7歳だったセナの背中に、やかんのお湯をかけてしまったの・・・。
私の不注意で・・・。
あのときの、激しく泣くセナの声がずっと耳に残っていて、
時々、夢を見るの・・・・。
あんなに、つらいことはなかった・・・。
セナは、私にとって、たったひとりの家族だと思っていたから、つらくて、つらくて・・・。
変わってあげられるものなら、変わってあげたいくらいに・・・悲しくて・・・。
おなかのこどもとセナが、重なってしまうの。
セナが、ひとりで何でもできるようになって、私のそばを離れていったころに、
私のおなかに、赤ちゃんがやってきたのよ。
なんだか、セナがおなかにやってきたみたいで・・・。
私とセナが持っているおそろいの指輪はね、私の母の形見なの。
私の母は、結婚しないまま、私を生んだの。
きっと、婚約式に使うために、買っておいた指輪だったんでしょうね。
それが、私に残された、たったひとつの形見なの。
母が、結婚式に着るつもりで作ったというチマチョゴリに、私は包まれて、天使の家に引き取られたというの。
そのときの指輪を、私とセナが持っているの。
お互いに、くじけないように、しっかり生きていけるように・・・。
どんなに貧しくても、心までは貧しくならないように・・・。
セナには、一生かけても返しきれないくらいの、借りがあるの。
背中のやけどの跡は、成形して消すことができても、
心の傷は、一生消えないわ・・・。
私が、未だに夢にうなされるくらいの恐怖だったのだから、セナにとってはどんなに怖いことだったのかと思うと・・・。
そんなセナを傷つけた私が、赤ちゃんを産むほどに、幸せになってもいいのかしらって、時々思うの・・・。」
「つらい思いを、いっぱいしてきたんだね・・・。
セナは、君のおかげで、今は十分に幸せを感じていると思うよ。
君の幸せが、セナの幸せでもあると思うよ・・・。」
「・・・私が、いなくなったら、セナのことをお願いしていい・・・?」
ヨンスの涙で潤んだ目は、必死に懇願していた。
「・・・・ああ・・・わかったよ・・・。」
ヨンスは、愛する人の胸元に顔をうずめると、また、眠りについた。
神様、もうひとつ、お願いを聞いてください。
今の間だけでも、こどもがおなかに宿る幸せな間だけでも、
ヨンスの見る夢を、しあわせな夢にしてください。
どうか、お願いします・・・・。
そのかわり、僕が怖い夢を見ますから・・・・
ヨンスが怖い夢を見なくていいように・・・・どうか、お願いを聞き入れてください。
愛しくてたまらない。
いつまでも、こうして抱いていたいくらいに、愛しくてたまらない・・・・。
君が苦労を背負ってきた分、僕がすべてを背負ってあげたい。
僕には、想像もつかないくらいのたいへんな思いを過ぎ越しながら、これまでの人生を生きてきたのだ。
これからの人生が、いつも笑っていられるように、僕は君のために生きるよ・・・。
一週間という日々は、あっという間に過ぎた。
ヨンスは、彼がいつまでいるのかを聞いていない。その日が来るのがつらいから・・・。
「・・・ヨンス・・明日は・・。」
ミンチョルがそこまで言うと、ヨンスは、しーっと人差し指を口元に立てた。
「私は、明日は一日、寝ていることにしたの。
私のことは、ほっといていいのよ・・・。」
一生懸命に笑って話すヨンスは、目を合わせようとしない。
「外は、雪が降りそうだわ・・・。
早く春が来て、お花見をしたいわ・・・
ね、あなた・・・。」
窓から外を眺めながら話すヨンスを、ミンチョルはそっと後ろから、抱きしめた。
そっと、腹部に手を当てると、ほんの少し膨らんだヨンスのお腹を触った。
「・・・生きてくれ・・・僕のために・・・生きていて・・・これから、ずっと・・・。」
ミンチョルの涙が、ヨンスの首筋に落ちた。
いつになく、食欲があるヨンスは、少し頬がふっくらしてきたように感じた。
「どうぞ。」
細い腕で、ミンチョルのグラスにワインを注いだ。
「こんなに毎日、あなたと一緒に食事ができるなんて、夢のようです。
もう、この後もないかもしれませんね。
あなたは、お仕事が忙しくて、家に帰るのも遅くなるでしょうし、
子どもが生まれたら、きっと、こんなにゆっくり食事をすることはできないでしょうね。」
「毎日とはいかないが、どうにか早く帰れるように、努力してみるよ。
それに、子どもを間において、食事すればいいし・・・・。」
ヨンスは、目の前にいる夫を、穴が開くほどに見つめていた。
「そんなに、見ていないで、君ももっと食べないと・・・。」
「ええ・・・
あなたが帰ってしまったら、また、しばらくは会えないんですもの。
今のうちにたくさん、見ていたいの・・・。」
眠れなかった・・・。
いつもなら、ミンチョルよりも先に眠ってしまうヨンスだったのに、今夜は、いつまでもミンチョルの寝顔を見ていたかった。
いろんなことを思い出していた。
初めて会ったときのこと、嫉妬から来る誤解で泣いたこと、別れたこと、病気だと知って戻ってきたこと・・・・
いつも、やさしく私だけを見つめてくれていた。
私の病気のせいで子どもが生めないということをひたすら隠して、苦しんでいた頃・・・。
私がいなくなったら・・・・もしも、私が死んでしまったら・・・・この人はどうなってしまうんだろう・・・。
苦しみに耐えながら、生きていかなければいけないつらさを、私は残してしまう・・・・。
そこに、子どもが生きていたら、きっと、余計につらいんじゃないかしら・・・。
私が、子どもが生みたい、と言わなかったら、こんなに苦しい思いをさせずに済んだのに・・・・。
もう、悲しい思いをさせたくない。
苦しみに耐えながら生きていくなんて、させたくない・・・。
ミンチョルが目を覚ますと、ヨンスはぐっすり眠っていた。
眠っている今のうちに帰ろうか・・・・・
そうすれば、ヨンスは駐車場を見ながら泣かないでいいだろう。
そっと、起き上がると、リビングに行き、着替えをした。
クローゼットのバッグを出すと、着替えや道具などは、綺麗に荷造りされていた。
きっと、夜中の間にヨンスが帰る支度をしてくれたのだろう・・・。
ヨンスの頬にキスをする。と、そのとき、ヨンスの涙が頬をすっと伝わった。
ヨンスも、とっくに目を覚ましていたのだろう。
強く閉じるひとみからは、涙があふれて仕方なかった。
「・・・愛している・・・。」
ミンチョルは、ヨンスの頬をそっと触ると、そのまま出て行った。
駐車場から、2階のロビーを見ると、ヨンスの姿はなかった。
きっと、部屋で泣いているのだろうか。
また、ひとりにしてしまった。
ソウルに帰り着いたミンチョルは、すぐにカン・ナレに電話をかけた。
「お願いです、ナレさん。
もうしばらく、ヨンスについていてはもらえないでしょうか?」
「はい・・・私も、そろそろ出かけるところでした。
ヨンスは、帰るときは大丈夫でしたか?」
「うん・・・・寝ている間に帰ってきたよ。
それでも、悲しそうだった・・・。
どうか、ずっと、そばについていてもらえないだろうか?
ナレさんにしか、頼れる人がいなくて・・・。」
「はい、心配しないでください。ずっと、いますから・・。」
「ヨンスは、どうして絵を描かなくなったのだろうか?
僕がいる間、一度も絵を描かなかった。」
「・・・・ヨンスは、何も言いませんでしたか?」
「ああ、何も言わなかった。」
「・・・・言わない方がいいかもしれませんが、・・・・
実は、ずっと前に、ヨンスは赤ちゃんの絵を描いていて、ミンチョル社長を怒らせてしまったそうですね。
そのときのことがあって、もう、絵を描かないと決めたそうです。
あれほど、夫の悲しむ姿を見たのは初めてだったって・・・
ヨンスにとって、絵を描かないというのは、つらいことです。
それでも、ミンチョル社長のつらい姿を見るのは、もっと耐えられないことなのでしょうね。
生んじゃいけない、といわれている赤ちゃんを、生もうとしていることだけでも、社長に遠慮しているようです。
生むことで、自分の命が消えるようなことになれば、夫は生きていけなくなるかもしれない、だから、夫の前では、子どもの話はしない、とも言っていました・・・。
生まれた子どもは、天使の家に預けてほしい・・・と。
ヨンスは、死を覚悟しているんですね・・・。
自分と同じ運命を受け継ぐ子どもを作ってしまったって、子どもが不憫でならないって、泣いていました。」
ミンチョルは、息を押し殺すように泣いていた。
今朝、ヨンスが寝ていたときの顔を思い出した。
電話を切ると、いそいで部屋のクローゼットにあるヨンスの絵を取り出してみた。
丁寧に描かれているヨンスの絵は、どれもやさしさを感じさせる絵だ。
中でも、赤ちゃんの絵は、どれもほのぼのとして、癒される感じがする。
その中の一枚が、破けた後があり、その絵の上に、涙の跡があった。
あの日、ヨンスが幸せそうに赤ちゃんの絵を描いていた、あの姿を、どうして大事にしてあげられなかったのか。
こんなに、つらい思いをさせて・・・。
ミンチョルは、アーサー医師に、どうにか、妻を一時退院させてあげたいと話すつもりで、電話をかけた。
短い命であるのなら、なおのこと、そばを離れたくない・・・。
댓글 '6'
TiYan
maria chris
読んでくださってありがとうございます。
回を重ねるごとに、皆様からのメールやmemo、レスなどが、
「助けてください。」という言葉が増えます・・・。
これ以上、ヨンスとミンチョルの涙は見たくないですね・・・・。
次回は、ヨンスが家に帰ります。
しばしの夫婦の生活・・・・絵も描きたくなるでしょうね。
子供に対する思いが大きければ、生きたいと望む心も大きくなるでしょう。
きっと、ミンチョルの愛が勝つでしょう・・・。
どうぞ、みなさま、ふたりの運命を信じて、見守ってあげてください。
ヨンスのお父様も、生まれてくる新しい命によって、父だと名乗りでる勇気を得るでしょう。
これからの「・・・それから・・」終盤になりますが、読んでくださいね。
回を重ねるごとに、皆様からのメールやmemo、レスなどが、
「助けてください。」という言葉が増えます・・・。
これ以上、ヨンスとミンチョルの涙は見たくないですね・・・・。
次回は、ヨンスが家に帰ります。
しばしの夫婦の生活・・・・絵も描きたくなるでしょうね。
子供に対する思いが大きければ、生きたいと望む心も大きくなるでしょう。
きっと、ミンチョルの愛が勝つでしょう・・・。
どうぞ、みなさま、ふたりの運命を信じて、見守ってあげてください。
ヨンスのお父様も、生まれてくる新しい命によって、父だと名乗りでる勇気を得るでしょう。
これからの「・・・それから・・」終盤になりますが、読んでくださいね。